大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和32年(ワ)3039号 判決

原告

右代表者法務大臣

中村梅吉

右指定代理人法務省訟務局参事官

家弓吉己

法務事務官 泉山信一郎

大蔵事務官 恩蔵章

大蔵事務官 河合昭五

東京都世田谷区若林町二二五番地

被告

金沢永吉郎

右当事者間の昭和三十二年(ワ)第三〇三九号詐害行為取消等請求事件につき、当裁判所は、左のとおり判決する。

主文

訴外千代田電工株式会社が、昭和三十一年二月二十日被告に対し金五〇万円の債務の代物弁済としてなした別紙目録記載の不動産の所有権譲渡行為はこれを取消す。

被告は、右不動産について、東京法務局北出張所同年五月二十四日受付第一一九七七号を以てなされた、売買名義による所有権移転登記の抹消登記手続をせよ。訴訟費用は被告の負担とする。

事実並びに理由

原告指定代理人は、主文同旨の判決を求め、その請求原因として「訴外千代田電工株式会社は、昭和三十一年二月二十日現在において別表記載のとおり源泉徴収所得税及び物品税等合計五、一三二、二一一円を滞納していたが、右訴外会社は、別紙目録記載の建物を除いては、他に右税金を完納するに足る資産を有しないにも拘らず、左建物に対する差押を免れるため、昭和三十一年二月二十日、被告に対し借受金五〇万円の債務の代物弁済として、右建物の所有権を譲渡し、同年三月二十四日売買名義を以て所有権移転登記(東京法務局北出張所受付第一一九七七号)を経由した。しかして、被告は右訴外会社の設立(昭和二十四年四月十五日)当時より昭和二十七年十一月三十日まで同会社の代表取締役、昭和二十八年一月十五日より同年三月二十七日まで同会社の取締役に就任し、右会社の代表取締役大賀川永三郎とは義兄弟の仲にあり、また前記五〇万円は同会社の事業資金として貸付けたものであつたが、同会社が営業不振のため、昭和三十一年二月頃休業状態に陥るや、直ちに代物弁済として前記不動産の譲渡を受けたもので、右の事実関係よりして、被告は、訴外会社の前記不動産の譲渡行為が租税の滞納処分を免れるためになされたものであることを知悉していたものと考えられる。

よつて、原告は、前記租税債権に基き訴外会社に対し滞納処分を執行しようとしても、右会社は無資産であるから国税徴収法第一五条に基き、訴外会社と被告との間になされた前記代物弁済を取消すと共に、被告に対し本件不動産に関する前記所有権移転登記の抹消登記手続を求めるため、本訴請求に及んだ。」と述べた。

被告は、適式な呼出を受けながら本件口頭弁論期日に出頭せず、且つ、答弁書その他の準備書面も提出しない。

従つて、原告主張の請求原因事実は、被告においてすべて自白したものと看做される。そして右事実によれば、原告の本件請求は理由があるのでこれを認容し、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 市川郁雄)

物件目録

(イ) 東京都北区王子四丁目十二番地四

家屋番号同町五四〇番

一木造瓦葺平家建工場事務所一棟

建坪二七坪五合

(ロ) 同 都北区王子四丁目一二番地四

家屋番号同町五二五番

一木造瓦葺平家建居宅一棟

建坪一三坪五合

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例